打率、打点、防御率といった従来の指標ではなく、客観的な新たな指標として統計学的根拠を基づいたものとして野球界に定着しつつある理論。それがセイバーメトリクス。名物GMビリー・ビーンが、このセイバーメトリクスを駆使し、オークランドアスレチックスを低予算で強豪チームにした過程を克明に描いた本がタイトルの「マネー・ボール」だ。
セイバーメトリクスと言えば、代表的な指標はOPS(On-base Plus Slugging=出塁率+長打率)だが、ビリー・ビーンはそれよりも出塁率を重要視した。出塁率というのは、言い換えればアウトにならない確率のことであり、27個のアウトの間にいかに得点するかが野球の本質だと考えると、アウトになる確率は低ければ低い方がいいということである。当然、出塁率が高い選手というのは打率が高かったり、長打力があったりするものだが、ビリー・ビーンは低予算でチームを強くするため、このような万能な選手は獲得せずに、足が遅かったり守備が下手だったりするけれど、出塁率が高い選手を狙って獲得した。
また、同様に考えると投手は被出塁率が低い投手がいい投手のように思えるが、ビリー・ビーンはグランド内に飛んだ打球がヒットになるか凡打になるかは運によるところが大きく、投手の能力はグランド内に飛ばない打球、すなわち四死球、三振、本塁打にのみ表れると考えた。この指標がDIPS(Defense Independent Pitching Statistics=(13×被本塁打+3×四死球-2×奪三振)÷イニング数+3.2)である。ちなみにセイバーメトリクスでは被出塁率に似た指標して、WHIP(Walks Plus Hits per Innings Pitched=(与四死球+被安打)÷イニング数)という指標もある。
このセイバーメトリクスを使って、日本プロ野球を分析してみたい。まだ今年はシーズン途中なので2006年シーズンで分析する。また、規定打席・投球回数以上のみを対象とすると選手が少なすぎて面白くないので、100打席以上・30イニング以上の選手を対象とする。
まずは出塁率。
1.松中.453 2.福留.438 3.カブレラ.404 4.ウッズ.402 5.小笠原.397 6.青木.396 7.金本.393 8.和田.392 9.李承燁.389 10.岩村.389 11.石井義.389 12.関本.382 13.高須.373 14.ラロッカ.372 15.前田.371 16.フェルナンデス.370 17.中島.368 18.川崎.364 19.鳥谷.362 20.ワトソン.362
野球ファンで無くても知っているような名前が並ぶ中、気になるのは石井義とワトソン。西武も石井義をもっと起用していれば、今年の低迷は無かったかも。(ちなみに今年は296打席で.325と、あまり良い成績ではないが。)
次はOPS。
1.福留1.091 2.ウッズ1.037 3.李承燁1.003 4.松中.981 5.小笠原.970 6.カブレラ.968 7.岩村.968 8.リーファー.924 9.フェルナンデス.910 10.吉村.909 11.リグス.901 12.金本.897 13.セギノール.888 14.和田.886 15.前田.882 16.稲葉.878 17.ズレータ.874 18.中島.849 19.多村.847 20.濱中.844
各チームの主力が並び、掘り出し物的な選手は居ないが、強いて言えばリーファーが狙い目か。今シーズンはあまり起用されてない(43試合)し、もし放出されるようならば獲得に手を挙げる球団が出てくるかも。
出塁率では長打力が反映されないし、OPSでは長打力が重視されすぎということで、その中間のNOI(New Offensive Index=(出塁率+長打率÷3)×1000)を打者の総合力として評価する動きも出てきている。NOIのランキングはこうなる。
1.福留656 2.松中629 3.ウッズ614 4.李承燁594 5.カブレラ592 6.小笠原588 7.岩村570 8.金本561 9.和田577 10.フェルナンデス550 11.青木542 12.前田541 13.セギノール533 14.ズレータ531 15.リグス529 16.稲葉529 17.関本529 18.中島528 19.吉村527 20.石井義527
ここでも出てきた石井義。あまり注目されてないけど、実はかなり良い選手なのでは?出塁率ランキングともに出てきている関本にも注目したい。
投手の指標を見てみよう。まずはDIPS。
1.藤川1.45 2.クルーン1.93 3.豊田1.94 4.馬原1.94 5.武田久2.31 6.藤岡2.45 7.藤田2.46 8.松坂2.56 9.ソニア2.58 10.ウィリアムス2.61 11.斉藤和2.61 12.永川2.70 13.岩瀬2.75 14.押本2.87 15.三井2.87 16.鈴木2.90 17.岡島2.91 18.小林雅2.94 19.黒田2.95 20.小野寺2.95
やはり各チームのストッパーが並ぶ中、意外なのは3位の豊田。昨年、あまりピリッとした結果が出なかったように思えるのは守備で足を引っ張っていたからか?錚々たるメンバーに名を連ねたソニアを1年で解雇してしまった横浜は、もったいないことをしたかも。
次はWHIP。
1.藤川0.86 2.岩瀬0.87 3.牛田0.93 4.姜建銘0.94 5.松坂0.94 6.永川0.98 7.川上0.98 8.クルーン0.98 9.斉藤和1.00 10.武田久1.02 11.武田勝1.02 12.黒田1.04 13.上原1.06 14.星野1.06 15.平井1.08 16.ガトームソン1.09 17.小林雅1.10 18.八木1.10 19.和田1.10 20.山本昌1.11
DIPSと比較して先発陣が上位に食い込んだが、それでも1位は藤川。やはり現時点での球界No.1投手は藤川か。今年精彩を欠いている姜建銘、八木、山本昌がいい結果を残しているところを見ても、WHIPはその年のコンディションに大きく左右される指標と言えるかも。そういう意味でもDIPSこそが投手の総合力を判断するのに最も適した指標なのかも知れない。
ということで、けっこう興味深い結果となった。2007年分もシーズン終了後計算して発表しようかな。
※今シーズンの記録は、いずれも9月23日現在。